
保存または治療が困難なインプラントの除去は安全で比較的簡単です。
インプラントを除去しなければならない場合、どうすればいいでしょうか?
インプラント治療は世界中において広く普及している治療法です。しかし普及するに従い、症例によってはトラブルも出てきています。そのトラブルの中で、時にインプラント本体の撤去が必要な症例もあります。
インプラントの撤去が必要とされるほとんどの症例では、撤去は安全で比較的簡単に行う事ができるでしょう。しかし、中にはインプラント体と顎骨が強固に結合してる場合もあり、その際は大きく骨を削り、力をかけて撤去する保守的な手法に頼らざるを得ません。当院では最新のインプラントにおけるトラブルシューティングと手順に関して熟知していますので、その侵襲を最小限に抑えることができます。
なぜインプラント治療が失敗してしまうのでしょうか。
インプラント治療の失敗について理解を深めるためには、初めにインプラント治療でどのような失敗があるのかを知っておく必要があります。一般的にインプラント治療の失敗は時期によって2つに分類されます。1つは“早期失敗”と言って、インプラント手術後2、3ヶ月で起こります。
これはインプラントが周囲の骨との結合がうまくいかないことで起こりますので、通常であればインプラントの撤去は簡単に行うことができます。多くの早期失敗症例ではインプラントが動揺してきます。この原因として考えられるのは、患者様自身の治癒能力が低い場合、傷口の感染、手術の際にインプラントをしっかりと骨に固定できなかった場合などが挙げられますが、最も多いのは術後の治癒過程においてインプラント本体に微小な振動や衝撃が加わることで起こると言われています。
このページでは早期失敗症例に焦点を当てておりません。早期失敗症例は既にインプラント本体が動揺しているので撤去が簡単だからです。これと対照的に“晩期の失敗症例”はインプラントが機能し始めて1年以降に発現します。この場合、強固に支持されていたインプラントが動揺し始めます。原因は感染によるものや、インプラントに荷重がかかり過ぎていることが考えられます。また早期に荷重負荷させた場合によく起こると言われています。
この場合は早期失敗症例と同じく、インプラントが動揺しますので撤去が容易です。
他の晩期失敗症例の多くは、“インプラント周囲炎”と呼ばれるもので、インプラントは強固に骨と結合していますが、レントゲン検査で特異的な周囲骨の吸収を認めます。この周囲骨の吸収は細菌がインプラントの頸部で繁殖し、その細菌が骨破壊を引き起こします。
インプラント周囲炎は私たち歯科医師と患者様の間で大きな関心事になっています。何故ならインプラント周囲炎はインプラント治療の中でも進行性の特徴を持った感染症の代表例だからです。インプラント周囲炎は間欠的な疼痛に加えて、膿と悪臭を伴います。対策はこの感染の進行を止めることですが、残念ながら疼痛や感染の拡大と骨吸収を止めるためにはインプラント本体の撤去が必要になるケースが多いです。
最近のスウェーデン発の研究論文ではインプラントを入れてから5〜10年経ったもので26%にインプラント周囲炎の兆候が認められたとの報告があります。
最後に、インプラントの埋入された位置、方向が悪かった場合もインプラントを撤去した方がいい理由の1つになります。その理由は、機能面や審美的な面で問題が生じやすいからです。
しかしこのトラブルは術前の治療計画と治療をしっかり行えば避けることは可能です。
他のものに比べて撤去しやすいインプラントはありますか?
状態の悪いインプラントの除去が必要になった時、骨とどの程度結合しているかは顎骨の骨質に依存します。一般的に上顎より下顎の方がインプラントの撤去は難しいと言われています。しかし上顎のインプラントも結合力が強い場合もあります。また期間ももちろん重要な要素になってきます。
術後24ヶ月以上経過したインプラントは24ヶ月未満のものよりも有意に骨と結合しています。ただインプラントの周囲2−3ミリしか骨の支えがなくても、インプラント体は強固に骨と結合してるときがあります。これはインプラントの表面と支持骨が強固に化学的な結合状態にあるためです。他の要素としては、インプラント体の太さ、長さ、連結様式が挙げられます。
太く、長いインプラントは骨との接触面積が大きいため骨と結合してる面積も大きくなるので撤去が難しいのは明らかです。細いインプラントは撤去する時の強い力で上半分だけ折れてしまうこともありますので困難な場合があります。世界には1000以上のインプラントメーカーが存在し、中には珍しい形状の物もあります。その場合は撤去ツールがうまく上部の連結部分に噛み込まないことがあります。そのため撤去する手段が限られてしまいます。
そしてインプラントの中で下顎の大きな神経や上顎の上顎洞粘膜と接して埋入されている場合もあります。そのため撤去の際には隣接の歯や繊細な構造を壊さないために細心の注意が必要です。
インプラントを撤去後、また新しくインプラントを入れることは可能ですか?
いくつかの症例で撤去後に骨補填を行ってインプラントを早期または撤去と同時に再埋入できることがあります。早期にインプラントを再埋入することで患者様の時間と費用を節約することができます。
しかし支持骨の吸収量から早期に再埋入できない症例もあります。インプラントを撤去したときにできた骨の削除量が大きすぎるとその場所に再埋入することが困難か最悪の場合再埋入ができないこともあります。よってインプラントを撤去する時はとても注意深く行う必要がありますし、健康な骨を削って撤去しなければならない事態も考えて骨補填の準備をする必要があります。 骨補填は将来のインプラント埋入に備えて予定される場所に再び骨を作るのが目的です。
担当医は骨補填するだけでインプラントを保存できると言っていました。試みてもいいものでしょうか?それとも撤去すべきですか?
これはインプラントの研究者の間で今日よく議論されるトピックの1つです。なぜなら保存が難しいインプラントの周囲に骨補填を行ったことで、新しい骨ができて再びインプラントがその骨と結合したという報告があるからです。
しかしその成功率は8ー25%です。 細菌が侵入してくるリスクは依然として存在していますし、高確率でインプラント周囲炎に再び罹患する可能性があります。
肯定的なポイントとして、インプラントの側面に良好な組織の成長が認められ、そしてインプラントをきれいに清掃することができれば長く保つことができるかもしれません。
現在の研究ではインプラント周囲炎に罹患したインプラント体に対して、抗生剤、インプラント体の表面を除染するテクニック、そして骨補填材の種類など様々な手法を用いた複合的な研究が行われています。それぞれインプラントにはSLAや陽極酸化処理やTiuniteなど異なった表面性状がメーカーによって採用されていますので、どんなテクニックがどの表面性状に有効なのか使い分けることも求められます。
そして何よりもこの手順を行う時には色々な要素を考慮して行う必要があります。
- どのような骨吸収や失敗が生じたか、
- 支持骨の減少量
- インプラント体の形
- 口腔清掃状況やクリーニングが行き届いてるか
- 喫煙者か非喫煙者か
- 患者様の健康状態
- 以上の全てがこの行程において重要な要素となってきます。
一般的なインプラント撤去法
カギとなるのは撤去時になるべく骨を保存しながら行うことです。
もっとも最適な器具は周囲やインプラント体になるべくダメージを加えずに十分な力を加えることができるものでしょう。いくつかの症例では骨削除を行わずにインプラントの撤去を行うことができます。これがアプローチとして理想的な終着点です。
インプラントの撤去には通常2つのアプローチの方法があります。1つの方法はトレフィンバーというものを使用するものがあります。これは正確にインプラントの縁から0.5ミリから1.0ミリの幅でインプラントの周囲骨を削除することでインプラントが抵抗なく撤去できるようになるという道具です。もう1つは超音波を用いる方法です。当院ではピエゾサージェリーという機械を用いて骨削除を最小限に行っています。ピエゾサージェリーは超音波を用いたもので、インプラントの周囲骨や軟組織に低侵襲でアプローチすることが可能です。
繰り返しになりますが、1番のカギは撤去の際にどれだけ支持骨を保存できるかにかかっています。特に外側と内側の骨を保存できるかが大事です。他の側面の支持骨は自然に再生しやすいのです。
最後に撤去するための新しい技術は続々と開発されてきています。これらの撤去システムは高い逆回転のトルクを使用し、数分でインプラントを撤去できることがあります。多くの場合、これらの高トルクを加えることできる器具はアダプターに接続され、大量の逆トルクが加えられ、インプラントを骨から効率的に除去します。しかしそれは完璧ではありません。歯科医師のスキルとそのツールをどう使い分けるのかを歯科医師が熟知していることがとても重要なのです。